第13章 息継ぎの泣き声
「…あいつ、忘れてってるし」
ベンチには忘れられたケーキの箱が残されている。
何とももの寂しい。
ケーキの隣に座ると、傑の温もりが残っていて、少し気持ち悪かった。
この温もりがその人の残した悪霊の温もりだとか、誰かが言っていたけれど、くだらなすぎて返す言葉もない。
『八乙女さん!』
『や、やめてくださいよー』
『これ、いいですね!使わなくなったらください!』
『千夏さん!』『千夏さん!』……
「う…あぁぁぁぁ~……うっ、ぁぅあ……」
何度経験しても慣れない、この感覚。
命が失われていく、この感覚。
死を目の前にしてから今まで、泣くのを我慢していた私に、誰でもいいから助演女優賞をくれないだろうか。
私が灰原に会ったのは、私が2年生の時。
新入生を面白半分で覗きに行ったときだった。
明るくて、優しくて、馬鹿みたいに素直で、何にも全力で。
みんなから好かれる好青年だった。
もちろん私もその1人で、定期的に灰原に会いに行っていた。
『ねー、こっちとこっちのシュシュ。どっちが可愛い?』
『うーん。どっちも似合うと思いますよ!あっ、でも、五条さんは…こっちの方が好きそうですね』
決して私のことを貶さず、私の恋を応援してくれた。
たまに要らない計らいを見せてくれたが、それすらも嬉しかった。
『なるほど。八乙女さんの考え方、凄く綺麗…綺麗…?うーん。いい言葉が思いつかないけど、素敵だと思います!』
私が言葉の持つ呪いについて話し、呪霊を友達だと思っていたことを打ち明けた時、灰原は笑って受け入れてくれた。
彼に人を傷つける力はあるのだろうか。
そんな優しい彼が、どうして死ななければならなかったのか。
決して七海ちゃんが死ねばよかったとか、そんなことではない。
「何で、灰原が……!」
呪霊が憎い。
憎くてたまらない。
こんなにも呪霊を憎く感じるなんて、初めてのことだった。