第13章 息継ぎの泣き声
「性格悪いって思う?」
「ああ。我慢しないで、涙くらい流してあげろ」
「傑だって泣いてないくせに」
傑は初めて顔を上げた。
そして、頬に手を伸ばして、不気味に笑った。
「確かに、その通りだな」
この笑顔が怖かった。
笑う目の奥に潜んでいる、知らない傑が怖かった。
「…今、何考えてるの?」
傑は目を見張った。
「何って?」
「何を、考えてるの?」
汗ばむ体に制服が張り付く。
こんな時間に制服を着ているなんて、最近では珍しい。
着替える暇がなかったのだ。
「灰原のことに決まってるだろ」
「それはそうだけど…」
今日、灰原が任務中に死んだ。
私が学校に帰ってきた頃には、既に絶えていた。
傷だらけの顔で、静かに眠る灰原を、眺めることしか出来なかった。
「上手く言えないけど、傑が怖い。千春がそう言ってるの」
「怖い?」
「多分、それが意味として一番近い単語だと思うって、千春が言ってた」
傑は馬鹿にして笑った。
何を言っているんだ、と。
移動しようとする傑の腕を掴んだが、すぐに振り払われてしまった。
いつもなら絶対にこんなことをしないはず、と思うのは、単なる理想化の結果だろうか。
「相談ならいつでも乗るけど」
「千夏に相談するなら、地蔵に相談した方がマシだ」
いつも通りの返し。
私からしたら、傑はいつも通りに見える。
友人の死に心を痛める、ごく普通の夏バテ気味な高校生だと思う。
でも、千春が違和感を覚えている。
だから、傑がなんと言おうと、私は構い続ける。
「本当に、いつでもいいからね」
「余計なお世話」
そう言って、傑は寮とは反対方向へ消えていった。
これ以上、親切心をお節介と思われたくない。
ここは大人しく引き下がろう。