第13章 息継ぎの泣き声
今日は三日月が昼から出ていた。
白い月が妙に周りから浮いていたのを、覚えている。
雲ひとつない真っ青な空に、白い月。
誰だって違和感を覚えるだろう。
そんな月が今はどこにも見えない。
探せばどこかに…いや、真上に浮かんでいるだろうけれど。
私には見えなかった。
周りに注意しながら、歩く。
部屋にはいなかったから、きっとここら辺にいるはず。
そんな目星をつけて、歩く。
私が探していた人は、ベンチに腰かけていた。
まさか、寮から離れた公園にいるとは思わなかったが、ほんの少しの可能性を信じてよかった。
「よっ」
私が声をかけると、手を払われた。
あっちに行けと言わんばかりに。
「これやるよ」
元の予定ならば、既にこれは傑の胃袋にあったはずだ。
甘さ控えめのチーズケーキ。
袋を差し出しても受け取る気配がなかったため、隣の空いたスペースに置いた。
じっと反応を待つ。
俯いた顔を見せてくれるまで。
「あっち行け」
「行かないよ」
「話す気分じゃない」
「話をしに来たわけじゃない」
両手をポッケに突っ込んで、続く言葉を待つ。
「帰れ」
「嫌だ」
「七海にもキレられただろ」
「そうだね」
さっきまで七海に怒られていた。
デリカシーの欠けらも無い、と。
傑の前に腰を下ろし、顔を覗こうとすると、本気で払われた。
これ以上やり続けたら、本当に怒らせてしまいそう。
心の中でため息をつき、再び立ち上がった。
「何か私にして欲しいことある?」
「1人にして欲しい」
「それ以外で」
「どうして」
「1人でいるのは寂しいことだから」
「今くらいはいいだろ…」
「ダメ」
夜風が傑の髪を揺らした。
伸ばしている理由は、なんとなくだそうだ。
邪魔じゃないのかと聞くと、別にと素っ気なく返された時のことを、今でも覚えている。
「お前は、本当に…私達の前でも、泣かないんだな」
「うん」
みんなの前でなら泣いてもいいと思っている。
けれど、今泣かない理由はきちんとあって。
何故なら、傑が怖かったから。