第12章 無駄な生と必要な死
上も、私の強さを認め始めたのだろうか。
次第に元の生活に戻りつつあり、平和な学校生活というものを手に戻しつつあった。
「おっ、七海ちゃんじゃないか~」
分かりやすいほど、顔が変わる。
こんなことではもう傷つかない。
むしろ、毎回同じ反応をする七海ちゃんが、面白くなっていた。
「どこ行くの?」
「任務です」
「どこの?」
「どこでもいいでしょう」
持ち物の確認をしているのか、ポケットを数回叩き、時計を確認した。
「任務、私もついてってあげようか?」
「結構です。八乙女さんも忙しい……」
「あ、また八乙女さんって言った。千夏ちゃんって呼んでって言っただろーが」
七海ちゃんにデコピン。
私はあまり苗字で呼ばれるのが好きではない。
明確な理由があるわけではないけれど。
「七海~、ごめー…ん!」
階段を数段飛ばし、着地した灰原。
額には汗が滲んでいた。
「あ、千夏さん!こんにちは!」
「ほら、見てみなさい。灰原はきちんと私を千夏って呼んでくれてますよ」
「…人を下の名前で呼ぶのには、慣れないんですよ」
七海ちゃんは灰原に時計を見せつけた。
どうやら、待ち合わせ時間に灰原が遅れていたようだ。
灰原は必死に謝る。
この光景を、今まで何度目撃しただろうか。
「準備は30分前には終わってるんですよ。でも、いつの間にか…」
「分かる分かる、あるよね~」
「ないです」
ソワソワして何度も時計を見るのだが、出発5分前になると、急にすべきことが頭に浮かんでくるのだ。
七海ちゃんには、分かって貰えなかったけれど、私と灰原の間では理解を共有している。
「それじゃあ、行ってきますね~!」
「気をつけろよ~」
一礼した七海ちゃんと、大きく手を振る灰原に向かって叫んだ。
今日の私は巡回が2件だけ。
それも、1年の……特徴的な名前の子(忘れたわけじゃない)とペアを組むから、比較的楽だろう。
少し早いけれど、1年坊主を迎えに行こう。
そして、早く巡回を終え、新しくオープンしたケーキ屋でケーキを買って、みんなでお菓子パーティーでもしよう。
灰原と五条には見た目が豪華なものを。
傑と七海ちゃんには甘さ控えめのケーキ。
硝子は糖質オフの一択。
今日も充実しそうだ。