第12章 無駄な生と必要な死
「そもそも、大人なんて大っ嫌い。今でも大っ嫌い」
自分勝手で、すぐにお金で解決しようとしてくる。
命をお金で計ってくる。
冥冥さんを嫌う理由はこれ。
でも、冥冥さんはまだ許せる方。
その腹黒さを隠そうとしないから。
「私が大好きなのは育ての親だけ!」
「…親には縁を切られたんじゃ?」
「あれ。言ってなかったっけ。私、養子だよ?」
「だから、育ての親だろ?」
たしかに。
あの人たちも育ての親だ。
「そっちじゃない育ての親」
「何人親がいるんだ」
「3人。私を産んだ人も入れたら、5人か」
その5人とも、今どこで何をしているか知らない。
そもそも、5人中2人には会ったこともないし。
生きているのかすら分からない。
「その中で唯一心を許せたのは、1人だけ。顔も声も正直覚えてないけど、しーさんって呼んでんの」
しーさんだけは、私達を心から愛してくれた。
自分のことよりも、私達のことを考えてくれた。
ふと、手元を見ると、せっかくの証明書が歪んでいた。
力を入れすぎたみたいだ。
「…しーさんには適わないけど、夜蛾先生のことはまぁまぁ好きだよ」
チラッと横を見ると、先生が口元を抑えていた。
目元を見るに、ニヤニヤしていることは間違いない。
「きっっっも!」
「…嬉しいもんだな」
「マジで、その顔一生すんな!キモすぎ!」
先生に証書を押し付けて、3歩後退。
何をされても逃げられるよう、距離をとる。
「これ…」
「私、物の管理できないから、先生持ってて。額縁に入れて飾れよ。毎日のホコリ払いも忘れんな」
「はぁ?」
「いいな!」
「お、おい!」
廊下を走る、走る、走る。
すぐに先生の姿は小さくなった。
「私が卒業する時に返せよー!」
私が高卒認定試験を受けた本当の理由は、先生や皆に、私が普通の生活を楽しんでいることを伝えたかったから。
それならば、証明書を持つべき人は私じゃない。
私をここに居させてくれた、先生だろう。
今年と同じように、来年も桜が咲く。
私はその桜を誰と見るのだろうか。
隣には、誰が立っているのだろうか。