第12章 無駄な生と必要な死
「これ持ってー」
「は、はい…」
1年坊主は荷物持ち。
何故なら、私が持ちたくないから。
ちなみに、1年坊主の名前はとても覚えにくかったので、1年坊主と呼ぶことにした。
「あ、待ってください」
「んー?」
「で、電話が…」
ガサガサと紙袋を揺らしながら、慌てて電話を取る1年坊主。
そんなに袋を揺らしたら、ケーキが崩れるかもしれない。
「ほら、袋よこせ」
「ありがとうございます…!」
自分で持たせておいて、いい身分だな。
私自身もそう思っている。
それと同時に、なんて優しいんだろうと、自分を褒めた。
「はい、はい…」
電話だと言うのに、律儀に頭を下げる1年坊主を見てため息をつく。
長くなりそうだと感じ、通りの向こうにあったショーウィンドウに目をやった。
「あ、あの…」
「ん?」
「七海さんです。八乙女さんに変わって欲しいと…」
「七海ちゃん?」
七海ちゃんから電話なんて珍しい。
不思議に思いながら、1年坊主に持たせていた自分の携帯を耳に当てた。
「やっほ。どうした~?」
『八乙女、さん』
「…何があった」
七海ちゃんの声から、すぐに何かあったことを察した。
『灰原が…死にました』
体が動かなくなった。
一瞬にして乾いた口を、必死に動かした。
「そう」
それでいい。
落ち着いて、声を出せ。
「後どのくらいで着く?」
『20分くらいです』
「分かった」
そして、一方的に電話を切った。
私は目の前の看板から目が離せなくなった。
看板が魅力的なのではなく、眼球が動かなかったのだ。
「1年。帰るぞ」
「はい?」
「ダッシュ。ついてこれなかったら、置いてく」
それだけ言って、優しさのかけらもない走りで高専に向かう。
1年坊主ははるか後方を、荷物を持って走ることとなった。