第11章 裏切りのスパイス
「昨日は最高の1日だったのに、なんで今日はこんなにも…。みんなと大事な話してたのに、冥冥さんのために無理矢理切り上げてきたんだからね。そこんとこ…」
「さて」
冥冥さんが斧を取り出した。
そろそろ、本当に逃げる準備をした方が良さそうだ。
「そうやって余裕こかれると、少しイラつくねぇ」
「じゃあ、命乞いとかしてみようか?『冥冥さん~!助けてぇ!死にたくないよォ』」
首に手をやり、蹲る。
「…はは。少しくらい笑ってくれても良くない?」
冥冥さんの気遣いの無さに呆れ、思わず大爆笑。
この余裕っぷりが鼻につくのだろうが、仕方ないじゃないか。
「それで?私のこと殺すの?」
「場合によってはね」
「場合?」
冥冥さんは近くに落ちていた汚れたパイプ椅子を持ってきて、腰掛けた。
私も欲しいと言ってみたが、簡単に無視されてしまう。
「私に”千春ちゃん”を見せて欲しい」
だから、何故冥冥さんが千春のことを知っている。
千春の事は秘密にしろと言ったはずだ。
五条やみんなから漏れたとは考えたくないし、夜蛾先生か、もっと上か…。
「やだね。サーカスじゃねーんだよ」
「…ふふ」
「あ?何笑ってんだ」
口元を押さえて上品に笑う冥冥さん。
もう『さん付け』をするのも馬鹿らしいけれど、一応冥冥さんにはこれまでの恩がある。
「千春のこと、誰から聞いた」
「言うと思うかい?」
「思わない。これは質問じゃない。脅迫」
「言わなかったら?」
「可能性のある人達を片っ端から殺してく」
無論、そんなことは絶対にしないが。
それくらいの代償が、冥冥さんの答えにはある。
「全く怖くないね。そういうのは、力を見せつけてから言うもんだよ」
ここで言う力が、私が普段使っている呪言を指さないことは自明である。
冥冥さんはどうも、本当に千春を見たいようだ。