第11章 裏切りのスパイス
「冥冥さん、大丈…」
落ちていたのは冥冥さんの髪の毛。
冥冥さん本体はどこにもいなかった。
シャッ
私の頬を何かが切り裂いた。
『ち、ちち…』
「千春、大丈夫だから」
興奮する千春を抑えて、辺りを見回した。
落ちてきた呪霊しかいないように思えるが…。
頬を流れる血を指で拭った。
「まずは、お前だよな」
芋虫型の呪霊の腹を呪具で刺す。
すると、中からうじゃうじゃと小さな虫が沢山でてきた。
冥冥さんの居場所はきっとこの体の中か体の下。
とりあえず、この呪霊を殺すことにしよう。
「千春。私の周り見といてくれる?」
『う、うん』
「ありがと」
頬の傷は刃物で切られたように、綺麗に切れている。
まるで…。
(まさかっ!)
気づいた時には遅かった。
既に私の四方には壁ができていて、大きな鳥かごのようなものの中に入れられてしまった。
「…はぁ。やっぱり、冥冥さんより怖い人はいないや」
少しだけ短くなった髪の毛を結きながら、1歩ずつこちらに向かってくる。
「あーあ。私の優しさを無駄にしやがって。冥冥さん、バチ当たるぞ」
「ふふ。いつもの千夏に戻ったみたいだね」
この鳥かごはどうやって作ったんだろうか。
冥冥さんが作ったとは考えにくいし、ならば第三者が関わっているはず。
「あのさ。冥冥さんってどっち側?」
「何の話?」
「あーあ。冥冥さん、怖っ!」
女は何より怖い。
そして、冥冥さんはどんな女より怖い。
つまり最恐。
「私のこと殺せって言われた?」
「…」
「もしかして、冥冥さんの独断?そうだったら、マジでショックなんだけど」
いつも通り余裕の表情で、私が1人でベラベラ喋っているみたいに見える。
そろそろ何かしら教えてくれないと、強硬手段を取ることになりそうだ。