第10章 誕生の隠匿
****
「呪力が全くないんだ」
私の力は私のものではない。
全部、全部、千春のものだった。
私でもこの状況のすべてを理解しているわけではない。
千春が『私と一緒に平和に暮らすか、一人でいばらの道を歩むか、どっちがいい?」と私に聞いてきたから、私は千春と一緒に生きる道を選んだ。
私の力についても『千夏がこの世界で生きることになったから、貸してあげる』と言われただけ。
これだけしか教えてくれないなんて、情報が少なすぎると思うだろうか。
私はちっともそうは思わない。
私にとって千春はゼウスのような人で、千春の言うことを聞いていれば間違いなかった。
そして何より、詳しく聞くと千春が不機嫌になる。
千春を失うことが何よりも怖い私は、今までずっと千春の言うことを聞いてきた。
「呪力が、ない…?」
「そう。これっぽっちもない」
千春がそう言っていた。
「じゃあ、今までのは…」
「全部千春の力」
千春だとか、呪力が全くないだとか、傑と硝子からしたら未知のワードだろう。
その表れとして、二人は見たこともないような顔をしていた。
……♪
誰かの携帯が鳴っている。
私の携帯だ。
表示されているのは、あまり関わりたくない人の名前。
「もしもし」
『今どこにいる』
「寮だけど」
『…夜蛾から何も聞いてないのかい?』
不機嫌そうな声。
冥冥さんが不機嫌なのは、大変よろしくない。
急いで頭の中で記憶を再生する。
「…ごめんなさい、冥冥さん。なんも覚えてない」
無言。
冥冥さんの無言ほど怖いものはないかもしれない。
『今すぐ来なさい』
「えっ、どこに?」
可哀想な私。
場所も分からないのに、来いとだけ言われて。
そう思ったのも一瞬のことで。
すぐに冥冥さんから地図が送られてきた。
地方ではなく東京だったことに、一安心。
「ごめん、みんな。冥冥さんに殺されたくないから、急ぐ!」
「はぁ?こんな中途半端な…」
「あとは五条に聞いて!」
本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
何度だって謝るし、焼き肉だって奢る。
二人の怒りを足し合わせても、冥冥さんの恐怖には勝てない。