第10章 誕生の隠匿
その後のことは覚えてない。
何度も思い出そうとしているけれど、記憶にない。
救急車が到着して、白いヘルメットを被った人が私のことを抱き抱えた。
どこにも死体がないって誰かが叫んでいた気がする。
死体?
何を言っているんだろう。
みんなはここにいるじゃないか。
「千夏…」
しーさんは救急車が来る前に、私のことを1度だけ抱きしめた。
「ねぇ。どうしてこんな赤い服着てるの?」
「…うっうっ…ごめんなさい、ごめんなさいっ…」
「どうして謝るの?」
しーさんはこの後家に戻り、病院のお世話になったらしい。
私もついて行きたかったけれど、知らない男の人たちにダメだと言われてしまった。
「こんにちは、千夏ちゃん」
そして、私にはお母さんとお父さんが出来た。
何回か一緒に遊んだり、お泊まりしたりした後に、『この人たちと暮らしたい?』って聞かれたから、何も考えずに『うん』と答えた。
そしたら、いつの間にかこの人達と一緒に暮らしていた。
「ねー、お母さん。なんで私は千夏って名前なの?」
「それはね、きっと千回の夏を経験して、美しい女性になって欲しいからだよ」
「じゃあ、千春は千回の春を経験するの?」
この人たちは、私が千春たちの話をすると、途端に話を変えてくる。
傷が残ってるのよと、よく分からないことを2人で話しているのをたまに聞く。
「ねーねー、なんで空って青色なの?」
「さ、さぁ。お父さんに聞いてみたら?」
『太陽から出た光の中に含まれる青色が反射されやすいから』
「へえ、そうなんだ」
何を言っているんだろうと、毎回不思議に思う。
千春ならここにいるじゃないか、と。
前と変わらず、私を見守ってくれているではないか、と。