第10章 誕生の隠匿
制服とその他もろもろを拾い集め、五条の部屋を飛び出した。
「おい、千夏!!」
「待ちなって!」
「ごめん!また埋め合わせするから!」
何度謝っても、二人は追いかけてくる。
最後尾を走る五条は、何が何だかわかっていない様子だった。
「何でついてくんの!」
「話が終わってないからでしょ!」
「今逃したら、次いつ会えるか分からん!」
それはそうだ。
今日を逃したら、みんなと会えるの目処がない。
真夜中に時間をつくれば別だけど、私の話をする元気が残っているとは思えない。
「う~!それでも、冥冥さんが怖いの~!」
一足先に部屋に入り、鍵を閉める。
合鍵を持っている五条が来て開錠される前に、急いで着替えた。
(そういえば…昨日の夜って…)
脳裏をよぎる甘い夜。
チョコレートより甘い夜が明けると、キャンディーのようなご褒美に満ちた朝を迎えると思っていた。
「あーけーろー!!ドア、壊すか?」
「悟が来ればいい話だ。待とう」
実際待ち構えていたのは、パチパチキャンディーだった。
まるで借金取りに追われている気分だ。
「悟、開けてくれ」
「はいはい」
ガチャと鍵が差し込まれる音。
ここにいたら、ドアが開いた瞬間に捕まってしまう。
そうなれば出口は一つ。
窓しかない。
「……逃げたか」
そんな声がかすかに聞こえ、その直後に傑が窓から顔を覗かせた。
「アデュー♪」
不格好な投げキッスを傑に向かって投げた。
建物に対して垂直な体を大きく広げて風を感じる。
はたから見れば自殺行為だが、私は大丈夫。
『無茶ばっか』
一瞬だけ千春が出てきて、私をキャッチ。
私が地面に足をつけるのを確認すると、すぐにいなくなった。
わずか0.1秒の出来事だった。
「じゃあ、行ってくる!!!」
小さく見える三つの頭に向かって叫んだ。
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「あんなのアリ?」
「傑、追いかけないの?」
「無駄だろ。分かってるくせに」
「じゃあ、行ってくる!!!」
こっちの気も知らないで、呑気な…と思いながら。
「「「いってらっしゃい」」」」
聞こえてないと分かりながらも、きちんと返す三人であった。