第10章 誕生の隠匿
当時赤ん坊だった私が、どうしてこんなにも鮮明に当時のことを語れるかと言うと、それは千春のおかげだった。
千春はきっと私より1年早く生まれている。
しーさんのせいで同い年になってしまったけれど。
その1歳の差は大きい。
いや、年の差は関係ないのかもしれない。
千春はとても頭が良かった。
それはもう、病気並みに。
千春が嘘をついている可能性もあるが、どうやら千春は前世の記憶を引き継いでいたらしく、未発達の脳でもある程度のことはできた。
もしかしたら、生まれた時から脳が発達していただけなのかもしれないけれど。
千春の頭の良さは、しーさんを驚かせた。
人間ではありえないほど話し始めたのが早かったり、ありえないほど早い段階で、文字を読むのも、書くのもできていた。
普通だったら病院に連れていきたくなるだろう。
けれど、私達は戸籍がないから病院に行くことは難しい。
そして何より、しーさんが千春の頭の良さを『賢いねー』の一言で済ました。
単に驚いただけなのだ。
しーさんは常識というものがなかったのだ。
本当に皆無。
赤ん坊に対する世話の仕方も知らないし、時には千春がしーさんに指で指示をしていた。
そんな状況もしーさんは普通に受け入れる。
『ありがとー。千春』って。
でも、そんなしーさんが大好きだった。
千春も、千秋も、千冬も。
本当にしーさんが大好きだった。