第10章 誕生の隠匿
1989年 8月15日
”千夏”誕生────
私が生まれたのは最高気温を更新し続ける、よく晴れた夏の日だった。
厳密に生まれた日は知らない。
だから、人間として生き始めたこの日を、誕生日ということにした。
「千夏~!」
「きゃはは!」
「にゃー、可愛いっ!」
捨てられていた私を拾ってくれたのは、若い女の人だった。
名前も、歳も、顔も、何も覚えていないけれど、そういう人がいた事はぼんやり覚えている。
だから、今は勝手に『しーさん』と読んでいる。
『しーさん』の『しー』は4という意味。
4という数字はどこから来たかと言うと、私には3人の姉がいる。
しーさんは私を含めた4人の捨て子を育てていた。
4月25日生まれの千春。
11月7日生まれの千秋。
2月9日生まれの千冬。
4人合わせて、春夏秋冬。
よくしーさんは全員の名前を言う時、そのように略していたらしい。
しーさんは無職だった。
しーさんが家出をするときにかっさらった親のお金で、何とか暮らしていた。
しーさんの親は誰もが知っている大富豪で、裕福な暮らしいしていたらしい。
けれど、それに似つかない大雑把な性格。
私達の年齢を面倒だからという理由で全員1歳で統一したくらいだ。
そんな不安定な生活の中で、どうして私達を拾ったのか。
それは『私達を見つけたから』
見つけてしまったから、もう逃げられなかったと言っていたらしい。
そう。
しーさんは誰が見ても馬鹿で、世界一優しい人だった。