第9章 陳腐な七色、儚い紅
「え、違うけど」
「くっ…ははは!マジで聞いてやんの…!」
千夏は絵に書いたようなすっとぼけ顔。
悟の大笑いがとても頭にくる。
「え、何?私が呪霊だって話になってたの?」
「いやー、こいつら最高だよな」
「…五条が変なこと言ったんでしょ」
「言ってない、言ってなーい」
千夏の勘が鋭いことは1度置いておいて、私と硝子は一安心した。
2つの仮説が共に破壊され、嬉しかったのだ。
「あーなるほど。昨日の続きの話かっ!」
「そうそう。それで、2人が朝イチで面白すぎる仮説を披露しに来てくれたってわけ」
「灰原が来ちゃって、話し続けられなくなったもんね」
千夏は長い足を出して、ひょいとベットから飛び降りた。
幸い、悟のパーカーのサイズが大きかったので、大事なところはきちんと隠れていた。
「2人とも、私のことを大切に考えてくれてありがとう」
「…そりゃあ、友達だからね」
「…一応、親友だしね」
千夏はニコッと笑って、私達の手を取り包み込んだ。
「目、つぶってくれる?」
悟の真剣な眼差しと、硝子の疑いの眼差しを視界に入れてから、そっと目を閉じた。
「何を感じても、絶対に目を開けないでね」
「どういうこと?」
「大丈夫。被害はないから」
その直後。
背筋がゾクッとし、冷や汗が流れ出た。
思わず目を開けそうになるほどの威圧感を感じ、無意識に一歩下がっていた。
居心地が悪いことは勿論、今すぐ手を払いたなる。
「…OK。ありがとう、千春」
千夏がそう言うと、不安感が嘘のように消え、体を締め付けられるような感覚はなくなった。
「目…開けていいよ」
目を開けると、さっきまでと全く同じ光景が広がっていた。
どこにも、居心地が悪い原因はなかった。