第9章 陳腐な七色、儚い紅
「どう、だった?」
千夏が硝子に問う。
「…なんか気持ち悪ぃ。千夏が泣いた時にも同じような気持ち悪さがあった。嫌な感じっつーの?……正直に言うと、呪いを感じた」
硝子が正直に答えた。
「気持ち悪かった?」
今度は私に問う。
「気持ち悪いというか、あの空気の中に居たくなかったな」
「なるほど」
千夏は私達の手を離し、放たれた手を後ろで組んだ。
「一つだけ、わがまま言ってもいい?」
ここから大事な話が始まることは分かっていた。
硝子を横目で見て、千夏に許可を与える。
「…ありがと。あのね、これから私の秘密を言うつもりなんだけど…。聞いても、私と仲良くして欲しい」
先に反応したのは硝子だった。
先程までの悟のように、げらげらと笑い始めた。
「何言うかと思ったら~。まじウケるんですけど」
硝子は千夏の肩に手を置いた。
「そんなんで壊れるようなやわっちい友情なんですか?私達の絆はそんなもので壊れるんですかぁ?」
きっと、本気でそう思っているから、こうして大笑いして言えるのだろう。
千夏は心ここに在らずというような感じで、硝子の顔を見つめていた。
そんな千夏に私は1度だけ頷き、硝子と同じ気持ちであることを伝えた。
「…ほんと、ありがとう」
千夏はパーカーの袖で1度目を擦り、私達に向き直った。
「今まで黙っててごめんなさい。実は私ね…」
いつの間にか悟が、私の隣に移動していた。
きっとこの後に言うことは千夏にとって最も知られたくないものなのだろう。
悟の顔がそうであると物語っていた。
「普通の人間なの」