第70章 𝘚𝘦𝘤𝘳𝘦𝘵
体が冷たくて、空気が足りないって信号がでてる。
目の前も霞むし、笑ってしまうほど涙が出ている。
「千夏、1回…」
「や゛だっ、い゛がないっ…ゴホッ…で…」
もう嫌だ。
自分が、手を離してしまったら、全部、全部、無くなってしまう。
『…ごめん、まだ居て欲しい』
「…分かりました。ほれ、千夏。特別サービスだ」
私が欲しがったものは全部、全部なくなる。
全部、全部奪われる。
やだ、
やだって、
ずっと言ってるのに。
ずっと、ずっと…!
「アラサー、大号泣、ワロタ…って感じ?」
どこにも行かないって言った、約束したのに。
どうしてそっちが、先に死ぬの?
一生会えないんだよ?
「…流石に同情しちゃうな、これは」
言いたいこと、怒りたいこと、ぶつけたい言葉は沢山ある。
なのに、言わせてくれないんでしょ?
最低、本当に最低。
『っ…』
「大丈夫?」
『中々酷いな…。キツくなってきた…』
「医務室行けば薬ありますよ。呪力制限のやつ」
『薬、合わないんだよ。前飲んだ時は吐いてた』
約束、破るんだ、
破っちゃうんだ……
「……ねぇ、千夏。今渡すのが正解かどうかは知らないけど」
ぽん、と力のない手にのる黒いケース。
『五条のポケットに入ってたんだって』
「そう」
千春が開けて、見せてくれた。
気持ちばかりの宝石がついた指輪。
私が、私が……派手なの嫌だって言ったから
「…きれい、」
「そうだね」
キラキラ、してて、私の指に、ピッタリで……
「ぅぇっっ……悟っ、っ…」
お礼くらい言わせてよ。
どうして、どうして────
先に死んじゃうの……