第70章 𝘚𝘦𝘤𝘳𝘦𝘵
────は?
「まじ?」
千春は面倒そうに頷く。
「え、ってことは…赤ちゃんが…お腹にいるってこと?」
『そう』
「俺の?」
『じゃない?七海とは馴れ合いしかしてないって言ってたから』
子供なんていらない。
ただ利用されるだけの存在を作ってどうする。
そう思っていたのに。
この胸の高揚は本能なのだろうか。
「ちょ、もう5分!」
後ろから2人がついて来ることに文句も言わず、ひたすら前に進む。
寝顔はとても可愛らしくて。
頬に残っている雫を払ってあげる。
(ここに、赤ちゃんが…)
確かに、触れてみると膨らみが分かる。
そう分かると、やはり情けなくて。
「…何ヶ月?」
「もう少しで15週とかじゃない?」
となると、襲った時にできたわけじゃないか…。
「…嬉しい?」
まだカメラを回してるのか…。
なんだかいい気はしないけれど…。
「元々、結婚も子作りも前向きじゃなかったし、本心は分からないけど千夏も理解してくれてた…から、あまり考えないようにしてたけど。めっちゃ嬉しい」
今すぐ抱きしめて唇が痛くなるくらいキスしたい。
「…あ。動画撮ってるなら丁度いいや」
今度はカメラ目線で
「話、聞けなくてごめん。辛かっただろうに、距離置いてごめん。僕と千夏の子だろ?絶対可愛いしよ。こんなの早く終わらせてゆっくり過ごそうね」
こんな所でいいっしょ。
「これ、千夏に見せてね」
「もちろん」
「あ、あと千春…」
どうせこの2人はいつも一緒で、これからも一緒だろ?
離れるわけがない。
『何?』
「千夏が戦おうとしたら止めて。あ、でも……ん〜、まぁ、止めて。千春が戦って。少しの傷も許さないで」
『…』
「何?千春ならできるでしょ」
『……善処するけど、私だって今は生身の人間で…』
「でも千春は千春っしょ?いけるって」
千夏が戦力とならないのはちょっとワガママすぎるかもしれないけど、もしもの事があったら心配で仕方ないから。
それなら最初から戦わないでもらいたい。
「…んじゃ、伊地知のこと呼んでこい。そろそろ行く」
『っ、なんで私が…!』
今ならなんでも出来そうだ。
千夏と、お腹の子のために……
この事態をおさめないと。