第69章 取捨選択
な
───
────
つ、
ち、
────
─
『千夏!』
「ふぇ?」
少しスッキリとした頭で、何とか返事をする。
聞こえてくるのは携帯の着信音。
悟のおかげで新作が発売される度に携帯を変えているから、バッテリーはいつも新しい。
けれど、今回は充電の機会が少なかったから、それでも少し危機的になるほど。
あの時充電しておいて本当に良かったと思う。
いつもの朝のようにだるい中携帯に手を伸ばす。
しょぼしょぼとした瞼を開けると、僅かにピントが合わない……
へ?
表示されている名前は、五条悟。
私の記憶が正しければ彼は今閉じ込められているはず。
『…出なよ』
グースカ寝ている綺羅羅を他所に、震えた手で電話に出た。
「も、しもし」
《…千夏?》
声。
悟の、声だ。
「…さとる」
《ははっ、千夏だっ。良かった、大丈夫?》
さとる、だ。
「でて、きたの?」
《うん。今東京戻るよ。どこ居んの?》
「分かんない、けど。東京じゃない」
《そっか。戻っておいで》
本当に悟だ。
《全部、終わらせよう》
久しぶりに聴く声は、想像よりも重みがすごくて、なんだか感動してしまう。
言いたいこと、話したいことは沢山あるのに、時間だけが私をせきとめる。
「あの、ね…」
《ん?》
夜蛾のこと。
七海ちゃんのこと。
野薔薇のこと。
私が何も出来なかったこと。
話さないといけないのに、言葉がつまる。
「えっと…」
《……会ったら聞くよ。早くおいで》
「…うん」
わたしより先に悟が着くのは分かっている。
犠牲を聞いて、怒らないだろうか。
嫌われないだろうか。
約立たずだって言われないだろうか。
《大好きだよ》
「…私も大好き。本当に好き。ずっと好き」
《知ってる。じゃあね》
それだけが心配だった。