第68章 (飛ばしてください)
「それで満足したの?珍しいー」
「……あ。満足してないかも」
「?」
「あー傷ついてる。ハートが痛いって言ってるなぁ…」
急に心臓を押さえて、辛そうにニヤニヤしている。
皆「また始まった」と思っているけれど、次に出てくる欲求を待った。
「何をして欲しいって?」
「う〜、あ〜……五条に抱き締めてもらいたいなぁ…」
チラチラとこちらの顔を伺ってくるのが、地味にウザくて。
「は、なんだそれ」
「そしたら治るかも」
根拠の無い治療法に呆れた笑いが漏れた。
こいつはいつだって俺にくっつこうとしている。
「誰が抱きつくか」
「私が抱きつくのを受け入れてくれればいいよ?」
「受け入れねーっつーの」
女の子にそんな言い方したらダメだよ、とか。
少しくらいいいだろ、とか。
そんな視線を貰っても、出来ないものは出来ない。
我慢するなら徹底的に行わないと、欲深い俺は取り返しのつかないことをしてしまう。
「…振られた」
「こんなやつ放っておいて、私達がハグしてあげる」
「私も?」
「そうだよ、来い」
「あーん、2人とも好き〜」
…。
ほんと、見せつけてくるよなこいつら。
普通にウザイんだけど。
「…お楽しみのところ悪いけど、そろそろ時間じゃね?」
「「僻むなよ」」
「僻んでねーよ。優等生なお前らが遅刻していいわけぇ?」
俺だって何も考えずに抱きつきたいわ。
できない状況で煽られる気持ち、分かってんの?
「授業?」
「そう。多分実習」
「え、私も行こうかなぁ」
「そーね。あんた、単位やばいし…」
「座学じゃなかったら全然行くし。先生に任務以外を全部座学にされるからつまらないんだもん」
そーいや、去年の学年末も単位がどーのこーので進級が危うくなってたな。
あの時は補講で何とかなったけど、今年はどうだろうか。
「あーもー知らね。俺先行ってんぞ」
「待って、私も行くってば」
「…1分で準備して」
今年の夏はいっぱい遊ぶ予定がある。
海にも行くし、温泉にも行く。
いくつも予定は立ててあるのに、こんなにも不安なのは、こいつが可愛すぎるから。
ほんと────運命を恨んでしまう。