第68章 (飛ばしてください)
「風呂入るでしょ」
「いいよー」
「ちゃんとメイク落とすんだよ」
「はーい」
改めて、ここまで酔うなんて珍しいと思った。
学長相手だったから、いつもより進んだのだろうか。
僕はお酒が飲めないから、その楽しさを共感することは出来ないけど、少し羨ましいとは思う。
「あら早い」
「水飲みたーい」
「はいはい」
髪の毛は洗わず出てきたみたい。
長いから乾かすの時間かかるもんね。
「…眠くなった?」
「…ん」
きゅっと抱きついてきたその体は、風呂上がりだからか、はたまた眠いからか、とても温かくて暖房いらずだった。
「…私ね、本当に悟のこと好きなんだよ」
「知ってるよ。どうしたの?」
「本当に好きなの。なのに、毎日”好き”が更新されていくのが怖いの」
「…どうして?」
一層、抱く力が強まった。
「…ひとつは、私が悟に合わないと思ってるから。身分とかじゃなくて、人間として。悟は私より凄いから……たまに申し訳なくなる」
……僕はそんな大層な人間じゃない。
千夏は知らないだろうけど(言ってないからね)、僕は人間を殺したことがあるんだよ?
しかも、恵の父ちゃん。
無殺生を掲げる千夏と僕。
どっちが”凄い”か、考えるまでもない。
「もうひとつは……もし、悟がいなくなったら生きていけなくなるから」
「いなくならないよ」
「うん。でも、何が起こるか分からないでしょ?実際死にかけてたし…傑のことだって止められなかったし、……灰原だって。数時間前に送り出したばかりだったのに」
多分、千夏はこの先も後悔を積み重ねていくんだろう。
重くて抱えきれない量なのに、それを全部抱えようとする。
決して地面に置いたり、棚にしまったりしない。
「…今こうやって、普通に好きって言える環境が本当に幸せなことだっていうのはわかってる。でも怖い」
「大丈夫だよ。僕、ずっと隣にいるし」
「…ん。そうして」
この子は色んなものを失ってきた。
親、姉妹、友達、親友…。
それでいて、普通の生活を送ることが出来ているのは、心が半端なく強いから。
「私、悟も硝子も学長も七海ちゃんも。みんな死んだら私も死ぬって決めてるの」
「ダメだよ。寿命で死んで」
「じゃあ、悟が私の寿命に合わせて?」
「……はいはい、頑張ります」