第65章 家系
夏油の笑い声で締められた通話を振り返り、私たちが向かっていた場所で色々あったということは、つまり例の男が殴られた側だろうと推測した。
「先生に連絡いってると思う?」
「…いってるんじゃない?千夏って親いるんだっけ」
「いるけど、親には連絡いかないようになってるはず」
なんで殴ったんだよ…。
警察の世話になって怒られるのは千夏だろ。
「…ほんと、意味わかんない」
カラオケ屋に行くと、分かりやすくパトカーが止まっていて、中に入ると夏油と千夏がロビーのソファに座っていた。
先生の姿は見えない。
「早かったな」
「元々向かってたから」
千夏は俯いたまま動かない。
「てか、なんで夏油がいんの」
「千夏がひとりで出かけようとしてたから」
「はぁ?」
「悟との約束でね。暇なときでいいから、できるだけ外で千夏を1人にしないって。な?」
私達3人が出かけていることを知っていたから、適当に時間を潰していると千夏が帰ってきて、構ってやろうと思ったけれどすぐに出かけてしまって。
その背中に歌姫が怒鳴っていたから事情を聞くと、何やら面白そうな雰囲気だったから後をつけてみたらしい。
ふたりの間にそんな約束があったとはつゆ知らず、なんて過保護なんだと再認識。
「先生は?」
「さぁ。少なくとも、俺らは連絡してないし、連絡先も上手く誤魔化してる」
これも夏油の計らいだろうか。
私の知らないところで、知らない関係ができている。
私が3人との時間を減らしていたのに、今になって悔しい気持ちが芽ばえる。
「……ごめんなさい」
ぽつりと盛れた謝罪は、私に向けたものらしかった。
千夏は膝の上で拳をぎゅっと握った。
「……あとのこと、何も、考えなくて…ごめんなさい」
3人で顔を見合せた。
こんなに塩らしいこの子を見るのは初めてだ。
「…彼氏のこと、歌姫先輩から聞いたの?」
「……そう、ごめんなさい」
知られて困ることは人には話さないから、別にいいのだけれど。
聞けた情報はわずかだろうに、よく特定して殴れたものだ。