第7章 疑惑
「形成が逆転したな」と言わんばかりの表情で、ジンは続ける。
ジ:「例えば、サンクチュアリ号で殺した男。あんな穏やかな海に捨てられた遺体なんざ、潮に流されて近くの港に打ち上げられるはずだ。しかし、一向に死体はあがってこなかった。これがどういう意味か、わかるか?」
(この男、任務の後のことも追っていたの?)
私は、任務の完了報告をした時点でジンの監視も終わっていると、思っていた。
ジンは私が答えない様を見て、勝ち誇ったようにさらに続ける。
ジ:「まぁ、普段の俺なら任務後にターゲットの遺体がどうなったかなんざ、調べねぇ。ただ、あまりにもてめぇの遺体処理が雑なのに、遺体が一体も見つからないってウォッカたちが不思議そうに言っていた。だから疑ったんだ。てめぇは、死を偽装しているんじゃないかってな。そして、偽装する理由は一つ。てめぇが、どこかのネズミだとな」
一気に捲し立てるジン。
彼の言葉は的を射ているだけに、私は反撃の言葉をすぐに紡げなかった。
ただ、少しでも抵抗したいと思い、彼を睨む目に力を込める。
ジ:「諦めろ。どんなに睨んでも無駄だ。そして、俺を言い負かそうと考えるのも無駄だ。そろそろ、効いて来るはずだからな」
その言葉と共に、私は体に異変を感じた。
ジ:「どんな気分だ?普段、てめぇが使っている薬を飲まされた心地は?」
この時、私はやっと気づいたのだ。胸元にいつも仕込んでいる媚薬の瓶がなくなっていたことを。
体のあらゆる部分が熱を持ち始める。
(最悪、全部飲ませたのね…この男)
私は薬の耐性をつけているが、量を飲まされると一時的に薬の効果に充てられてしまう。
この危機をなんとか脱しようと考えを巡らせようとしたが、私はそこで意識を手放してしまった。
最後に、私の耳に届いたのは何かが破壊される爆音と、誰かが私を呼ぶ声だった…
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