第4章 この道、桜吹雪につき。注意。
●伊月 俊● 〜校庭〜
「やべぇネタ帳持ってきてねぇー!
忘れないうちに書いとかねぇーと!!」
「オレは今すぐにでも忘れたい」
小金井の視線を感じながら、俺は“新体制”と“異星”。
そして“新入生”と“侵入せい”を掛け合わせた語呂を、忘れないように頭に焼き付ける。
この時、小金井がどんな眼差しで俺を見ていたのかは。
分からない。
「でも…そうだよな」
「忘れるわけにはいかない!」と言う一心で、黙々と頭の中のネタ帳に書き込んで、バックアップを取るって言うのを何回も繰り返していた、そんな時。
横からそう聞こえてきたんだ。
どうやら、無事立ち直ったようだな。
「クヨクヨしてたって始まんねぇーし!
よぉーし!またガンガン声かけるぞ!」
「おぅ、そのいきだ!
水戸部も頑張ろうな?」
そう言って、小金井に向けていた視線を一度外して。
今度は、俺よりいくらか高い位置にある目に視線を合わせた。
水戸部が変わらぬ穏やかな顔で頷いたのを確認した俺たちは、再び勧誘を始めるためにビラを整えて手に持ち直した。
その時2人に、「仮にも俺がさっきのナイスなダジャレを忘れた時は、思い出すの手伝ってくれよ?」と保険をかけた。
「悪いそれは嫌だ」と言われたのが凄く謎だったが。
きっと「そんなセンスの塊みたいなダジャレは、才覚溢れた伊月しか思いつけない。オレには到底無理だから断る!」ってことなんだと思う。
やっぱり、俺のレベルに達するには相当な実力がないとダメなんだな!!
元々は、自分を誤魔化すために作り上げた雰囲気だということも遠に忘れて。
俺たちは、やっと勧誘に戻る。
…と思ってたんだけど。
「あ、そー言やさ…」
「ん〜?」
ふと思い出した。
あの女の子を見たときから、気になっていることがもう一つあることに。
しばらく俺が、一人論争に走ったこととは全く関係ないことだから、今の今まで忘れていた。
別に気にするような事でもないんだけれど。
「さっきのあの子」
ビラの山から一枚抜き取る片手間に、2人に向き直り。
確認するつもりでそれを聞いてみた。
ガチでしょうもない疑問なんだけど。
「ポテチ、持ってたよな?」
見間違えるはずのないソレの正体を追求したら。
同意を示すように。
水戸部が2回、頷いた。