第4章 この道、桜吹雪につき。注意。
●伊月 俊● 〜校庭〜
「いや、なんでもない。
ちょっと勘違いしてただけだ。」
そう口にしたのは、水戸部と小金井のためではない。
自分のためだ。
見てくれだけでも真実にしようと口をついた言葉は、好奇心の上部だけを嘘で覆い隠していく。
これで俺1人で完結できる。
それで十分だ。
そのためには、自分を誤魔化さないといけない。
「それより、小金井…」
「んぇ?」
今の俺の視界には、懲りもせず水戸部にしがみついている小金井が映っている。
同じ敷地内で、1日の大半を共にすることになる学友が集まるこの場で。
半径数メートル範囲内の生徒の視線が、俺たち3人に集まっていることに、俺は嫌でも気づいてしまうんだ。
特に、横を通っていく新入生の視線が痛い。
だから、恥ずかしげもなく半べそかいてる小金井の頭に、コツンッ!と一発入れてやった。
「いつまでもメソメソしてんじゃねぇーよ!
まだ勧誘の途中だってこと、忘れたか?!」
「いてぇ!おい小突くことないだろ?!」
小金井はそう言って、それまで頑なに離さなかった水戸部の体から腕を解き。
ビラをかかえていない方の手で、オレが小突いた箇所を押さえた。
水戸部の方は、親友を気遣ってなのか、それまで一歩も動けなかった状態から解放されて。
少しだけ、ホッとしているように見えた。
八つ当たりではない。
決して、八つ当たりなどでは。
小金井にとって、一発入れられるのは当然の報いだ。
そのついでに、自分を誤魔化すネタにさせてもらってるだけだ。
詳細を伝えず俺と水戸部を置き去りにしたことも、始めは責める気満々だったけど、しょうがないからそれは忘れてやる。
責めるにしては、時間が経ち過ぎた。
「お前が頑張って勧誘しているのは分かるよ」
「…そうなの?」
「あぁ、もちろんだ!」
それほど力を入れたつもりはなかったんだけど、俺が小突いた場所を撫で続ける小金井を見て。
少しばかり、申し訳ない気持ちが芽生えながらも続けた。
「でも男子に声かけないでどうする。
探してるのは、新しいチームメイトだろ?」