第4章 この道、桜吹雪につき。注意。
●伊月 俊● 〜校庭〜
「あっ、ねぇ!
ビラ!ビラだけでも貰ってくれない?
気が向いたら体育館においでよ!」
そう言ってビラの束から一枚取り出し、女の子に差し出した小金井の最後の悪足掻きが、躍起になってとった行動とは俺は思えなかった。
というのも、自分から玉砕しに行くほど馬鹿ではないコイツが、校舎に向かって歩きはじめた女の子の背中に、再び声をかけたのは。
少しだけでも、信じ続けていい理由が欲しかったからかもしれない。
今日、この時間、この場所で。
俺たちバスケ部と偶然にも出会ったという事実を、形に残せれば。
後になって思い返した時、女の子の気持ちを全く逆のものに変えてくれるかもしれない、と。
そして、「マネージャーに向いてない」と語ったこの子が、自らの脚で。
バスケ部のとこに来てくれると。
そう信じることで、待ちたいのかもしれない。
十中八九、水の泡になると頭では思っても、それを俺は無意味とは思わなかった。
少なからず俺も、「そう思いたい」と願って、待つことを決めた1人だから。
10〜20%に賭けてみるなんて、普通なら絶対ないんだけどな。
受け取ることを拒否することもできたはずの、小金井が差し出したビラを、女の子は右手を伸ばして手に取った。
そして小さく微笑むと…
?「はい、ありがとうございます。
検討しますね。」
そう言って俺たちに一礼して、再び真っ直ぐ校舎に向かっていった。