第3章 Reset. And...
●藤堂 天● 〜自室〜
布地…もとい布団から、腕だけ出す。
這い出して伸びた手が、少々乱暴に騒音の元凶を止めにかかる。
♪ピピピピッ ♪ピピピカチッ…
瞬間。室内は、けたたましい音から解放されて静寂を取り戻した。
音が鳴りやんだのとほぼ同時に、役目を果たした腕を即座に布団の中に戻した。
布団から離れた時間に比例するかのように、ものすごい速さで、腕の熱が奪われていくことが分かった。
布団の外で熱を奪われた腕は冷たく、私を身震いさせるのに十分だった。
一夜の間に私が発した熱を溜め込んだ布団が、じんわりと私の体を再び温め始める。
ベッドの中で、腕を抱え込み丸まりながらも、「寝てた」「朝」「起床」のワードは私の頭に張り付いて離れない。
嫌な気分だ。
起きなければならないのか。
気づかないうちに、6時間も経っていた。
寝てる時間というものは、過ぎ去るのが早くて本当に困る。
それでも。そばに居るあの目覚まし時計は、主人の意思など気にも止めない様子で正確に、且つ着々と刻を進めて。
私をさらに憂鬱にさせる。
ほんと、嫌な気分だ。
時間が流れていく。
15年間。
ベッドの左横にあった目覚まし時計は、今は私の頭上…ベッドフレームの小物スペースに置かれている。
知らない部屋に連れてこられて、おまけに乱雑に扱われるとなったら。
コイツも私に買われて、さぞ不憫だ。
あぁ、だから寝ている6時間を短く感じるようにしているのか。
嫌がらせだとしたら、効果は抜群だ。
『…ぎのゔど…おな"じ…だ』
起き抜けと寒さでうまく呂律が回らなかったが、一応「昨日と同じだ」と言ったつもりだ。
睡眠不足も。けたたましい目覚ましの音も。
まるで昨日あったことが、そのまま繰り返されているかのように。
また夜が明けて、当たり前のように朝日が昇るのも。
きっとこの先も変わらないのだろう。
『また…朝が来だ…』
こうして私はまた。
知らない街の朝に、目を覚ます。