第4章 この道、桜吹雪につき。注意。
●伊月 俊● 〜校庭〜
この子…
どこかで会ったこと…
初対面のはずなのに、俺の直感は「そうじゃない」と言う。
記憶の奥底で、目の前の女の子に関する“何か”がヒットしたように感じた。
忘れていてもおかしくない、ずっとずっと奥の方で息を吹き返したように。
どうにかして、その正体を突き止めようと静かに奮闘し始めた。
その矢先…
「ねぇねぇ伊月!いまこの子に
マネージャーになってくれないかって
お願いしてたんだけどさ!」
俺の中で決着をつけるより、小金井の方がずっと早かった。
折り合いをつける間もなく聞こえてきたその言葉は、小金井の目的を溌剌と表していて。
言葉の持ち主の方も、相変わらず目眩を起こしそうなほどにこやかで。
女の子の目を走った紫の光に負けないほど眩しいんだ。
「たぶんそうなんだろう」とは、思っていたけれど。
小金井の目的の根源を突き止めてしまった。
もしかして…いや、もしかしなくても。
俺のせい…か?
よりによって小金井の前で、「マネージャーも必要だ」と言ってしまったから。
それは確かめようもないが。
確かめるにしても、やっぱり早いのは小金井の方で…
「伊月もこの子に
マネージャーになってもらいたいよね?!」
「バカ野郎!
しつこくすんなって言っただろ?」
今のは答えになってなかったけど、正解だとは思う。
やってる立場から言うのもなんだけど、勧誘は所詮勧誘でしかない。
俺たちが出来ることは、あくまで勧めること。
押し付けることとは、また別の話だ。
しかも相手は年下だ。
いくら一個しか変わらないとは言え、校門からこちら側はどうしたって学年の差は生まれてしまう。
その隔たりが、図らずも無駄な気遣いを生んでしまう。
それで重荷を負うのは、明らかに後輩の方なんだ。
だから俺が、そうならないように早く止めてやらないと
?「あの!」
「「 ん? 」」
忘れていたわけじゃない。
だけど。
いつの間にか、置き去りにしてしまった。
俺の目の前には、同級生の顔。
後ろには、別の同級生の気配。
勝手に作り上げてしまった、上級生同士の馴れ合いに、少し大きめの。
それでいて、低くて落ち着いた声が。
隙間を埋めるように、俺たちの間を密に通って行った。