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宵闇の明けと想ふは君だけと〈I•H編〉

第4章 この道、桜吹雪につき。注意。


●伊月 俊● 〜校庭〜


女の子は、振り返り際に。
視界に捕らえた太陽の光を、瞼の奥に溜め込んだのだろうか。
一度落とした瞼を、再び開けた時。


紫が煌めく黒い瞳で、俺のことを見つめてきた。
起用にも、太陽の光を逆噴射させたように。


「うわぁ…美人だな」。
その顔を見下ろして、最初に思ったことだ。


らしくないことを言うようだけど。
特にその切長の瞼と、黒い瞳が。


俺の目に入り込んだ紫は、まるで線香花火のように火花を散らして、暗がりを越えて華々しく咲き誇る。
そして、最も美しい時を迎えたら、足音もたてずに一瞬で姿を消した。
真っ黒な瞳を見つめ続ける俺の中に生まれた名残惜しさが、光の再来に対する期待をより一層引き立てる。


自らの内側に捕らえた輝きを、余すことなく燦爛させたその瞳は、春の日差しを取り込んで煌めいたというより。
まるで意志を持っているのではないかと、勘違いしてしまうほどに輝いて…


そう。
それはまるで…


「私はここにいる」。
刹那の煌めきに、そう言われた気がした。


それは流石に肥大させすぎかもしれないけれど。
「確かに、これなら小金井も放っておけないか」と、納得するには十分だった。


俺が見下ろした、女子にしては長身の女の子。
小金井とそれほど変わらないように見える。


こりゃ“イーグルアイ”使って正解だったかもしれない。


気ままにも、過去の自分の冷静な判断に賞賛の声を上げようとした。
…けど、それは叶わなかった。


「ん?」


女の子の瞳が放った火花に翻弄されて、今の今まで何も思わなかったけど。
紫の消失と共に狭まった俺の視界は、徐々に目本来の効力を取り戻しつつあった。


そうなった時に。
俺は気づいてしまった。


確証はない。
知りようがない。


それでもやっぱり、無視することなんて出来なくて。


気づかないふりは出来ても、自分自身を誤魔化すなんて器用なこと。
俺には出来ない。


だから、気づいてやろう。
自分の直感に素直になった勢いに乗って、少しばかり大袈裟に。


見当もつかない。
その、“何か”に。


俺を見つめた、この子は…


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