第4章 この道、桜吹雪につき。注意。
●小金井 慎二● 〜校庭〜
今日のオレ、不運どころかすっげぇ〜ラッキーなのかも!
見つけたじゃん!大本命!!
「伊月!オレちょっと行ってくるわ!!」
「は?おい小金井!どこ行くんだよ!?」
伊月の返事を待つ気は、最初からなかった。
事後報告になるより、言ってから走り出した方が幾分いいと思ったからだ。
徐々に遠のく伊月の声を背中に受けながら、オレは正門に向かって走り出した。
「急がねーと他の部に取られちまう!」なんて、思ったのは確かだけど。
もしかしたら、鳥に驚かされたっていう不運を、早く幸運で埋めたかったのかもしれない。
高揚と若干の焦りを引き連れて、オレは女の子の前にたどり着いた。
うぉ〜!!
ほら、やっぱり可愛い!!
「ねぇ!そこのキミ!
ちょっといいかな」
そう言って女の子に向かって手を伸ばした。
だけど、女の子はオレの声にも、伸びた腕にもなんの反応もなしに、目の前を横切っていった。
あれ…聞こえなかったのかな…?
「ちょ、キミだよ。キミ!!
ポテチ持ってる女の子!!」
呼び止めるために、更に手を伸ばした。
女の子の肩をポンッと叩くと、それに反応してその子の体がビクッ!っと跳ね上がった。
ありゃ…ビックリさせちゃったかな?
申し訳なくなって、肩に置いた手を引っ込めようとした。
次の瞬間。
女の子は目を大きくして、俺の方に素早く振り返る。
「お、おぉ…」
思わず変な声を出してしまった。
遠目から見たときは気が付かなかったけど。
この子、女子にしては背が高い。
俺とそれほど変わらない…からだろうか?
一発で目線が合った。
女の子の両目は、振り向いたその軌道に乗ったまま、心の準備なんて念頭になかったオレの前にその存在を主張した。
視界を遮るものは、何一つない空間で。
裸眼のオレの目と女の子の黒目は、互いの瞳を捕らえた。
女の子はその瞬間。
何を思ってたのか分からないけれど。
自分のことは嫌でも分かってしまう。
男ってのは単純だから、それを理由にしたっていいんだけど。
これは戯言でも、大袈裟でもなく。
その黒い瞳に見つめられて。
吸い込まれるように囚われてしまったんだと思う。
純粋に。
見惚れてしまった。