第4章 この道、桜吹雪につき。注意。
●小金井 慎二● 〜校庭〜
オレの探し物は見つからなかった。
代わりにもっと珍しいものを見つけた。
あの子、正門が分からなかったのか?
んじゃどこから入ってきたんだ…
暗がりを背に茂みから完全に抜け出して、舗装された道の真ん中に躍り出た女の子は、正門を見つめているように見えた。
そんな女の子の後ろ姿だけで、オレの中で“勝手に一人アテレコ大会”が始まった。
その後ろ姿の内情は、「あぁ〜正門もちゃんとあったのか!さっき通っきた道、えらく生い茂ってたからおかしいと思ったんだよな〜」ってところだろうか?
相当なドジっ子と見た。
きっとコンクリートの地面に、底知れない安心感を抱いてるに違いない。
だけど、運が良かったかも知れない。
オレと女の子が見つめる先は、なぜかさっきよりも賑わいを増してるように見えたから。
そこを通るとなったら、勧誘の渦に確実に飲まれていただろう。
オレがそんなことを思っていると。
ドジっ子ラッキー女子は踵を返して、正門に向けていた顔を校舎側に向けた。
スカートを翻しながら振り返った。
その顔は。
「あ、あれは…!!」
紫混じりの深い黒髪と。
それに対比するかのような白い肌。
艶のある黒塗りの髪の奥には、切長の目と薄い唇。
フェイスラインで緩くカットしたショートヘアは、すっげぇクール。
特別、華やかってわけではない。なのに…
色気がヤベェ!!
まさしく…美形?!
一個下であろう女の子は、両耳からイヤホンのコードをぶら下げて、オレの方に向かって歩いてくる。
物憂げにも見えるその視線は校舎ではなく、どこか別のところへ向けられていた。
その視線の先は、女の子の左手で。
手に持ってるのって…
え、ポテチ!?
しかも無駄にデケェ!!
なんだよそれ…
食いしん坊さんとか、めっちゃギャップ萌え!!
うぉおぉ〜!!
初っ端からめっちゃ可愛い子発見!!
この時になって、やっと。
オレの意識は、“鳥への興味”から“部活勧誘”に変われたんだと思う。