第4章 この道、桜吹雪につき。注意。
●小金井 慎二● 〜校庭〜
知らない顔は半数。
知ってる顔も同じく半数。
ここにいる全員が、そうってわけじゃないことは分かってる。
だけど、上級生のオレからしたら、同輩と後輩の区別は一目瞭然だ。
だから、半数の知らない顔に範囲を絞って、ロックオンを始めたんだ。
そこんとこは抜かりない。
そんな風に造った視界の一角に、どこか違和感を感じた。
普通なら、絶対に見ないようなその光景に。
オレは素直に反応する。
この時すでに、鳥じゃないことは明白だった。
あれは人だ。
範囲を狭めた視界の中に、茂みを越えようとしている人影が映り込んだ。
次に分かったことは、その人影が女子の制服を着ているということ。
横から見た女子制服の姿は、桜の木の間から顔を出し、片足で舗装されたコンクリートの地面を踏んでいる。
もう片方の足は、緑の中に隠れてオレからは見えない。
一つの体で、太陽の光と木陰の両方を受けてるその子は…
顔は見えないけど在学生じゃない。
新入生なのはすぐに分かった。
検索範囲を“新入生”、“女子”に絞った、オレの超高性能追尾システムが反応したからってだけじゃない。
単に、在学生なら…
母校の校庭の茂みの中から“こんにちは”するわけがないと思ったからだ。
気がつかなかったけど。
オレはこの時既に、別の意味で目を奪われてしまっていた。
数十秒前に、2度もオレを襲った鳥の存在は既に忘れて。
大切にしていたはずの、ロマンスもトキメキも関与しない。
たった一つの、“興味”という好奇心に導かれるように。