第13章 英雄ぶるのも大概に
●天 side● 〜体育館〜
出来ることなら、この話はしたくなかった。
しかし、ムキになった勢いで訂正を入れてしまった手前、言い出さないのも変だと感じた。
『あの…これ聞いても
笑わないでくださいね?』
だから天は、守ってもらえるかも分からない約束を前置きに、重い口を開け始めた。
『勘違いされがちっスけど、
私ってそんな良い扱い受けたわけじゃなくて』
そこまで言うと、天は再び口を噤んでしまった。口にするのが憚られるのも仕方がなかった。
本人の意思とは裏腹に、世間が勝手に天とイコールで結びつけた、一度も愛することのなかったその“蔑称”。与えたのにも関わらず、その存在と共に忘れていった世の中を、天が憎まないわけがなかった。
沈黙に耐えかねた瞬間、天は心を決めて、乾いた唇を湿らせたら再び口を開いた。
『も…』
「「 “も”? 」」
全員の視線が注がれる。天は依然、視線を地面に落としたまま、その圧力に苦しみながら続けた。
『“もぐら”』
声にするのは一瞬だった。しかし自分が口にしたその言葉で、天は心臓を抉られたように感じた。本来の正しい意味以上に、天に突きつけられたその言葉は遥かに多くの意味を持っていた。
そして当然ではあるが、天の口から飛び出したその言葉で、その周りを囲っていた面々は動揺を見せずにはいられなかった。
「え?」
『“もぐら”です』
だから天は、聞き間違えではないことを証明するかのように、再び言葉を繰り返した。その回数が重なるごとに、天の心臓がズキズキと痛みを増す。
『私の呼び名、“土竜(もぐら)”…なんです』
そう。突如、中学時代に与えられた天の呼び名。
それは、 “日見ずの花形(エース)”。
通称、“土竜(もぐら)”だった。
「「 は?? 」」