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宵闇の明けと想ふは君だけと〈I•H編〉

第13章 英雄ぶるのも大概に


●天 side● 〜体育館〜


それまでリコに向けられていた視線が、自分に向けられたことに気づいた伊月は自然と背筋が伸びるのを感じた。


天が口にした、“名前”。それは先ほど、伊月が火神に告げた天の呼び名のことだった。
天は過去にほんの一時期ではあったが、確かに“麒麟児”と呼ばれ、周りからもてはやされていた。しかしその事実は、天にとって苦い思い出の一部となり、過去に捨ててきたつもりの話だった。


それを伊月はあくまでも擁護のつもりで口にしたが、天からしたらとんだお節介だった。


『そもそも私が“麒麟児”って呼ばれてたの
 だいぶ昔の話ですし…
 その名前は剥奪されたんです』

「はくだつ?」

『あと』


天は冷淡に…それでいて悲しげに、“麒麟児”を否定した。そして、伊月が“剥奪”という言葉に戸惑うのを置き去りに淡々と語り続けた。


『違いますよ?私の呼び名』


途端、不意をつかれたとばかりに、「え」という声が重なる。天がサラッと口にしたその言葉を、伊月や他のメンバーはすぐに理解出来なかった。


『自分で言うのもアレですけど、
 “神童”とか“麒麟児”とか。
 確かに呼ばれてはいました』


そこまで言うと天は、気まずそうに視線を地面へと落とした。それは“羞恥”からくるのか、それとも“後悔”からくるのか。それは伊月には分からなかった。


『でも、それは将来有望だと
 思われていた時期だけで』

「そうじゃない(時期)のがある、
 ってことなのか?」


伊月のその言葉に返答せずとも、“図星だ”と言うことが天の無言が証明していた。
それを皮切りに、天の話にますます引き込まれたのは伊月だけでは無かった。


“麒麟児”を否定したかと思えば、今度は「自分には他の呼び名がある」と言い出したのだ。


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