第13章 英雄ぶるのも大概に
●天 side● 〜体育館〜
「オレはまだピンとこねぇーけどよ」
そう言って切り出したのは、火神だった。本人が口にした通り、その表情からは未だ確信を得てないという様子が伺えた。
「コイツそんなにスゲェーのか?」
そう言って、天を指差した。
火神が指で示したのが自分だと気づいた時、その言動に少しイラついたが「指差すな!!」と言ってやりたいのはグッと我慢した。
「昨日も言っただろ?
中学生にして実力のあるエースだった、って」
天が怒りを消化する一方、本人に代わって伊月が語り始めた。それを聞いて火神が、思い出すような素振りを見せた。
「あぁ確か…女子バスケの日本一を
期待されていた、とか言ってたな」
「神童って言葉が相応しいな。
“麒麟児”って言われてた位なんだからな」
伊月が続けて口にした、“麒麟児”という言葉。それに天は、ピクリと反応した。その言葉に何ら思い入れはなかったが、過去のことを思い出すきっかけとなったのは確かだ。
しかし、当然と言えば当然だが、火神はそれだけではピンと来なかったらしく「“きりんじ”?」と聞き返した。
「小さい頃から天才的な才能を発揮して
将来有望とされた子どものことを
日本ではそう呼ぶんだぞ?」
そう言って伊月は、天の経歴を偉大な物のように説明する。
火神は、耳にした全てを正確に飲み込むことはできなかった。しかし、目の前の先輩が天のことをかなり称賛しているということは、ニュアンスから何となく理解した。
だからこそ、火神はますます分からなくなった。火神は改めて、天を視界にとらえた。
「仮にコイツがかなりやる奴なんだとしたらよ」
昨夜、伊月とリコから告げられた一つの事実。それは、誠凛には女子バスケ部が無いということ。
それは、天が誠凛にいる間、プレイヤーではいられないということを如実に現している。先輩たちがこれほどまでに称賛する過去を持つ天が…なぜ。
「そんなスゲェー奴が、
何で誠凛(ここ)にいんだ?」