第13章 英雄ぶるのも大概に
●天 side● 〜体育館〜
天はそれまで考えていた一切合切を頭の中から追い払うように、ブンブンッ!と頭を振った。脳が揺さぶられてクラッとしたが、ボールがぶつかって転倒した時よりも何倍もマシだった。
プレイヤー時代よりも長くなった髪が、頭を振るのに合わせて左右に揺らめいて、静止とともに顔にかかった。天の見る世界が、自分の髪で狭まる。それを鬱陶しく思いながら、最後に髪を切ったのはいつだったか思い出しつつ、視界を邪魔するそれを手で掻き上げた。
その時だった。
「藤堂さん!」
天を呼ぶ声が、体育館に響いた。その時天は、“ポテチちゃん”以外で自分の名前を呼ばれるのが、凄く久しぶりなように思えた。
今の天ならば、ここで仮に“ポテチちゃん”と呼びかけられても、それを自分のことだと認識して反応することが出来ただろう。しかし、“藤堂”こそが自分の本名という名の“本命”である以上、その呼びかけに気付かないわけには尚更いかなかった。
顔にかかった髪を掻き上げ視界が開けると、天は地面に落としていた視線を渋々上げた。
『はい…なんスか?』
天の視線の先には、バスケ部の監督、試合に出ていた二年生。そしてその対戦相手の一年生たちがいた。