第12章 ミニゲーム
●天 side● 〜体育館〜
試合時間残り3分。一年とニ年の点差は16点だ。
スリーなら6本で逆転。しかし、今の一年のポテンシャルを考えたら、スリーオンリーで想定するのは無理がある。
だとしたら、8本で同点。9本目でやっと逆転だ。
天は残り3分の間、黒子を見失わない様にしっかりとマークする。ついボールの動きに気を取られそうになるが、それでは意味がない。気分はコートの上にいる一年さながら、自分も黄色のビブスを着たつもりで黒子を探す。
もしかしたら、黒子自身はそれを望んでいないかも。その他大勢と同じ様に、天にも術中にハマって欲しいと思っているかもしれない。それでも天は、黒子が繋げようとしている糸の解(ほつ)れに割り込んでいく。
試合再開から早々、黒子へとパスが回る。もちろんボールの軌道に合わせて、その場にいる全員が揃って目で追う。
しかし、“誰に”パスが回ったかは見えていない。コート上にいる一年と、天を除いて。
放たれたボールが黒子の手中に渡った瞬間、球体は軌道を変え、次の瞬間にはゴール下の一年の手の中にあった。
『繋がった』
コンマ数秒も感じさせなかった。ほんの一瞬だったが、天の瞳には確かに、解(ほつ)れた糸を結いた黒子の姿が映った。
その後、ノーマーク状態だったボールは、いとも簡単にゴールリングへと飲み込まれていった。
「えっ…」「な…」
「入っ…ええ?!
今どうやってパス通った?」
ついに来たかと、天は息を呑む。そして同時に、先程まで不可能に思えた一年の勝利が微かに見えてくる。それは全て、黒子のプレイによって作られた道筋だった。
事情を知らない二年や試合を見ていた面々は、皆一様に“なにが起きたんだ?”という表情だった。披露された手品に見事騙され、そのタネに頭を悩ませているように。
天は自分までおちょくられないように、そんな芸当をやってのけた手品師から目を離さない。確かに騙されはしなかったが、顔は手品を楽しんでるかのように微笑んでいた。