第11章 バスケットボールと花時雨
●no side● 〜体育館〜
「ここだとまたボールが
飛んでくるかもしれないから、
更衣室で寝かせましょ」
続けてリコが「水戸部君、お願いね?」と頼むと、水戸部は静かに頷き、ぐったりとしてる天を床から優しく抱き上げた。
天を横抱きにする水戸部を、リコが先導して体育館から出ていくのを、他の部員は静かに見届けた。
取り残された者たちを包む空気は、仄暗くどんよりとした嫌な重みを持っていた。
それは単に、未だ振り続けている土砂降りのせいだけでは決してない。
「災難だった」、「可哀想なことをしてしまった」と、天に同情と謝罪を向ける一方。
「元No. 1…」
「なんか“イメージ”が…」
その心内には、まったく別の感情も抱かずにはいられなかった。
はっきりと言及するものは一人も居ないが、誰もが静かに心に浮かべていた。
「期待外れ」の四文字を。
ほんの少し前までは、「誠凛にバスケ強豪校のレギュラーだった女子がいる」という驚異に、胸を高鳴らせていたにも関わらず。
実物に会ってしまった今、理想だけで語っていた“藤堂 天”はすっかりと消え去っていた。
早々に肩を落とす日向と土田の横で、小金井は「なにか事情があるのかも」と考えていた。
「ポテチちゃん…やっぱり
選手じゃいられなくなったのかな?」
小金井にそう投げかけられたが、今の伊月は、
「分からない…」
そう答えるので精一杯だった。
現状を目の当たりにして、「こんな事態になってしまったのは俺のせい」と、好奇心を抑えられなかった自分に対して責任を感じていた。
そしてそれは、黒子も同じで…
よりにもよって、天が巻き込まれることになるとは、黒子も予想していなかった。
「今日ここに、自分が藤堂を誘わなければ」と、過去の自分の選択を恨んだ。
しかし、ずっとこのままでいるわけにはいかない。
なんとか切り替えて、今日の練習に励もうと各々試みる。
そんなメンバーたちの横で…
ただ一人、火神だけは。
なんの影響も受けず、難なく練習へと励んだのであった。