第11章 バスケットボールと花時雨
●no side● 〜体育館〜
しばらくして…
「水戸部君、どう?血止まった??」
リコにそう尋ねられた水戸部は、自分の腕の中に視線を落とし、天の鼻に当てたティッシュを確認した。
そして、流血が止まっていることを確認すると、静かに「うん」と頷いた。
全員がホッと胸を撫で下ろす中、水戸部は天を静かに床に寝かせた。
血は止まっても、未だ目を覚さない天は「ゔ…ゔう…」と唸って辛そうにしている。
「どうしよう…ポテチちゃんが
このまま目を覚さなかったら!!」
小金井が涙目でそう訴えると、「ちょっと大袈裟よ!!」とリコが捲し立てる。
「鼻血はボールがぶつかった時に出て…
気絶したのは、床に転んだ時の
脳震とうのせいだと思う」
「そのうち目を覚ますわよ」というリコの言葉に、小金井は安堵したように微笑みを取り戻した。
一方でリコは、「むやみに動かすと、起きた時に気分が悪くなるかも」と、天の身体を移動させるのにしばし躊躇した。
「どうしたものかしら…」と呟きながら、脈を測ろうと天の左手に手を伸ばす。
「練習もあるし、
移動させた方が良いんでしょうけど。
本来はこのまま安静にし……ん?」
リコは気を取られたように、天の左手を覗き込んだ。
天の動脈に指を当てようとして、何か見つけたようだ。
「これなにかしら…」
リコが溢した声に、周囲が「何なに?」と興味を示す。
「分からないけど。多分何かメモして…」
天の左手に、おそらく油性ペンで書かれたであろう文字を見つけたリコ。
他の部員も、リコにならって覗き込む。
白い肌に、黒の油性ペンはかなり主張が激しい。
天の左手には、
「つ…」
「「 “爪切り”? 」」
確かに、そう書かれていた。