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宵闇の明けと想ふは君だけと〈I•H編〉

第11章 バスケットボールと花時雨


●天 side● 〜体育館〜


雨音の中、廊下の奥の集団の声は聞こえても、火神が体育館の方へ歩いてくる音は聞こえなかった。


火神の射抜くような鋭い目に見下ろされ、天はピクリとも動けなかった。
そんな天に、再び火神は冷たく言い捨てる。


「目ぇ付いてんのかよ。気ぃつけろ」


そう言って、天を避けるように歩き始めた。
あまりの展開の速さに、天は言い返す間もなかった。
背後から「おー火神ぃ〜」と言う、火神にかけられたであろう声だけが聞こえる。


火神が立ち去ったことで、天は放心状態から解放された。
ハッ!として、火神の後ろ姿を追うように振り返る。
火神は廊下の少し奥先で、誰かと話している様子だった。
おそらく、先ほどの集団と鉢合わせしたのだろう。


『なんなんだよアイツ…』


火神の一連の行動に対して、天は不満を溢す。
前方不注意でぶつかったのは、自分の過失ということは分かっていたし、本気で謝罪するつもりだった。


そうだとしても、火神の相変わらず横柄な態度が気に食わなかった。
少しも天を心配する素振りがないことや、言葉の節々で相手を馬鹿にしている様子が、天は受け入れ難かった。


その一方、火神と話していた集団の中から一人が離脱して、


「おい火神お前薄情だな〜
 座り込んでる女の子スルーするなんて」


そう口にしながら、尻餅をついてる天の方に向かって駆け寄ってくる。


“座り込んでいる女の子”というのが自分のことだと分かると、天は再び焦り出した。
一旦ここから離れようとしていたことを、つい忘れていた。


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