第11章 バスケットボールと花時雨
●天 side● 〜体育館〜
渡り廊下を使って建物内まで来たは良いものの、体育館の入り口で天は立ち往生していた。
引き戸に鍵がかかっていて、体育館に入れなかったわけではなく、どんな風に体育館に入って行けば良いのか分からなかったのだ。
だから難しい顔をしながら、閉め切られた体育館の引き戸に、手をかけようとしては引っ込め。
しばらく考えて、再び手をかけようとしては引っ込めを繰り返していた。
中からは既に到着しているバスケ部員の声やドリブル音、バッシュで体育館の床を歩くキュッ!っと言う音が聞こえる。
部外者の自覚がある天が、この中に単身で入るのは結構な勇気がいる。
「ここに黒子がいれば別の話なのに」と思い、どうせならさっき一緒に来ればよかった、と後悔した。
「なら黒子にここまで迎えに来てもらえばいいんじゃ」と考え直した天は、黒子を呼ぼうと携帯を取り出したが、「連絡先知らねぇ…」と再び肩を落とした。
判断力が落ちているのは間違いないが、それだけ焦っているとも言える。
たった一枚の扉を越えるのに、これだけ苦労したのは初めての経験だった。
どうしようも出来ず、ただ時間だけが経っていく。
その分、緊張し続けることになり、天は息苦しさを感じ始めた。
そんな時だった。
天の耳に、数人の話し声が入ってきた。
雨の音に掻き消されそうだったが、確かに人…男子生徒の声だった。
その声は徐々に大きくなり、天を焦らせた。
どうやら談笑しながら、廊下の奥から天のいる体育館の方へと向かってくる様子だった。