第11章 バスケットボールと花時雨
●天 side● 〜渡り廊下〜
黒子はまだ、バスケを諦めていない。
中学時代の最後の戦い。
全中のあの試合を経ても尚、自分はバスケをプレイし続ける、と。
黒子は天に、遠回しにそう告げた。
黒子の真意に触れた天は、一抹の不安を感じた。
あの時の自分は、ただ何気なく聞いただけだった。
「バスケ部、楽しんでやってけそ?」、と。
しかし今、天の中はその問いに支配されていた。
それだけでいっぱいで、今にも溢れ出しそうだった。
天は知りたかった。
まるで、糸屑が心のどこかに引っかかって、それが気になって仕方がない感覚だった。
そして糸屑は、天に構わずどこかへと向かっていく。
徐々に、そして静かに、どんどん伸びていく。
天が歩みを進める方とは、逆の方へと。
そしていつしか糸屑は伸び切って、楽器の弦のように弛みなくピンッと張る。
その時の振動が、糸を震わす。
何かと繋がった合図を送るかのように。
糸の先で天と繋がった何かは、後ろから天を引っ張る。
まるで興味を引くかのように。
天は知りたかった。
ただひたすらに知りたかった。
その糸の先に、黒子が報われる未来があるのかを。
壮絶な中学時代を過ごしたのは天だけではない。
黒子だってそうだった。
黒子は苦しんだ。
苦しんだことを、天は知っている。
だからこそ天は分からなかった。
黒子が未だ、バスケに臨む今を。
そして天は気づいた。
この長く伸びた糸は、“心配”という感情によって作り出されていることを。
「私は心配しているのか?黒子くんを?」と自問自答を試みるが、答えは変わらない。
この糸の先に、黒子が報われる未来はないのかもしれない。
ないかもしれない、けれど…
天にはもともと、固い決意があった。
ここへ辿り着く前から、強い意志が。
自分がどうするべきなのかは分かっている。
何があろうと変わらない、やることは同じだ。
耐えろ、耐え凌げ。
重荷を負うのは、自分だけでいい。
いつか散る、その時まで。
自分が全て背負うから。
だからせめて…
せめて、黒子だけは。