第11章 バスケットボールと花時雨
●天 side● 〜渡り廊下〜
天にはもう一つ、秘密がある。
黒子に言えない秘密…
黒子はおろか、他の誰にも打ち明けることの許されない秘密が。
元プレイヤーであることが知られた今。
これ以上の深入りを許せば、黒子もその秘密にも触れることになるかもしれない。
天には、それを何としてでも防ぐ義務がある。
例えその秘密の重さに、ひとり押し潰されようとも。
黒子やバスケ部が思っているよりも、天の中を支配している問題は大きい。
秘密を守るためには、他者を遠ざけるのも厭わないほどに。
それでも尚、天はその重圧に耐え続けている。
天は視線を上げて、校庭に広がる桜並木を再び一望した。
相変わらず周囲に人気はなく、この光景を見ているのもおそらく自分だけだろうということが、天には分かった。
天は知らぬ間に、この降り頻る雨の中、盛りを終えようとしてる桜の木に自分を重ねた。
冷たい雨や風に吹かれようと、それでも耐えている。
力強くはあるが、最後は人知れず花は静かに散っていく。
いくら華々しく咲いたとて、花の命はあまりにも儚い。
「散らないで欲しい」、「そんなにすぐに私の元から去らないで欲しい」。
そうは思っても、所詮無駄な足掻きだということは、天が一番よく分かっていた。
それでも桜は美しいと、天は信じていた。
たとえ散ろうと、耐え凌いだ事実は変わらない。
「だから自分もそうあろう」と。
“耐えること”は美徳であると信じることで、天は自分を正当化した。
だから今回も、どうするべきなのかはもう分かっていた。
前の時と変わらない、やることは同じだ。
耐えろ、耐え凌げ。
重荷を負うのは、自分だけでいい。
いつか散る、その時まで。
そう心の中で唱えた瞬間、天は答えに辿り着いた。
「このまま真っ直ぐ帰ろう」と。