第11章 バスケットボールと花時雨
●天 side● 〜渡り廊下〜
「ボクは影です」
その言葉に、天は息を呑んだ。
『かげ…』
「ボクの役割です」
黒子はそこまで話すと、再び視線を天へと戻し、話し続けた。
黒子の澄んだ青い瞳が眼前に現れ、天は少し息を飲む。
「藤堂さんの話は、先輩から少し聞きました。
強豪校のレギュラーだったんですよね?」
黒子と視線が合ったことに驚いたのも束の間。
そう捲し立てられた天は、突拍子もないことを言われたとでも言いたげに、「はぁあ??」と溢す。
心なしか、声も自然と大きくなる。
『いや…いやいや!
“強豪”とかそんな大それたもんじゃ』
「そんな凄い人に、
こんなこと言うのは照れくさいですが」
天の様子を、ただ謙遜しているだけと捉えた黒子は、天が訂正しようとするのも聞かずに続ける。
「ボクのこと、応援してるって言ってくれたので」
その言葉で、天はまたしても先ほどの会話を思い出す。
『私はバスケとかよく分かんないけどさ。
応援してるから、黒子くんのこと』
その言葉を思い出して、天は少し恥ずかしくなった。
「バスケは知らない」という見え見えの嘘をついていたことを。
『確かに…言ったけど』
過去の失態を黒子に気づかされて、心に薄靄が掛かる。
申し訳なさを感じた天の声は、自信をなくしたように小さくなった。
しかし黒子は、それを咎める様子もなく。
真っ直ぐに天を見つめて、ただ一言こう言った。
「ボクのバスケを、見てもらえませんか?」