第4章 この道、桜吹雪につき。注意。
●黒子 テツヤ● 〜校庭〜
声をかけてみたい気もした。
それで何かが分かるかもしれないから。
でも、今ここでボクが話しかけても、きっと驚かれてしまうだけだ。
じゃあ逆に。
今を逃したらいつ話せる?
学年が違うかもしれないのに、次に話しかける機会が当たり前にあるとは限らない。
じゃあなんて声をかける?
合コンでもないのに、「お名前教えてください」なんて急に聞けないし。
そもそも声をかけたとして、気づいてもらえるか分からない。
そんな風に、数歩先を行く女の子の背を追いながら、1人で決め倦ねている間に…
?「ねぇ、そこのあなた!ちょっといい?!」
?「うおぉ!!」
声をかけるチャンスを、他の人に取られてしまいました。
「あ。」
機会を逃してしまったことに落胆する暇もなく。
女の子の手からポテトチップスの袋が逃げるのが見えた。
「このままだと袋が落ちてしまう!」。
そう思った時には、ボクは駆け出していて。
地面に向かって落ちる袋を…
受け止めた。
?「え。」
袋を追って中腰になった女の子と地面のちょうど中間で袋を受け止めたボクは、そのまま女の子の手の中に袋を戻す。
その時。
初めて顔を見た。
覗き込むように送った視線が、地面に向けた女の子の顔の輪郭を捕らえた。
手の中のポテトチップスの袋を、目を見開いて見つめるその顔に…
ボクは、会ったことはなかった。