第4章 この道、桜吹雪につき。注意。
●黒子 テツヤ● 〜校庭〜
敷地内は相変わらず勧誘で盛り上がっているけれど、先輩方はボクには気づかない。
まぁ、これは慣れっこです。
けれど…
新入生と思われる生徒たちは、軒並み先輩に声をかけられているというのに。
校門前で見かけた名も知らぬ女の子は、器用に人の波を掻い潜って、やっぱりボクの数歩前を行く。
手の中の小説に向けた視線を上げると、その背中がよく見える。
しばらく、名も知らぬ女の子の背中を追うかたちになったボクは。
いつしか、この人混みに物応じしないその後ろ姿から、歳上を思わせる雰囲気を感じ取っていた。
観察眼には自信がある。
経緯はどうであれ、ボクの中であの人はもう先輩だ。
同級生を見る目から、先輩を見る目に変わっても。
あの人の背中を見つめたボクの中で。
体現不可能な気持ちが生まれ続けていることだけは変わらなかった。
南の風に乗って、ボクの“匂いの記憶”に図らずとも触れていったからなのか。
文字通り、春風のように気まぐれに。
けれど、ボクの意識を一括りに攫っていくには、それだけで十分だった。
見当もつかないこの感情の正体は…
理解したいようで。
理解したくない。
それでも、ボクの記憶を刺激したあの人は。
誠凛高校の敷地内に踏み出そうとするボクの歩行を止めたその時から。
未だにボクの好奇心を掴んで離さない。
我儘を言うようなら、知りたいことはただ1つ。
あの人は、誰なんでしょう?