第11章 バスケットボールと花時雨
●天 side● 〜渡り廊下〜
『バスケ部、楽しんでやってけそ?』
静寂に耐えかねた天が、黒子にそう切り出した。
しかし、すぐに後悔することになる。
「まだよく分かんないです。
練習が始まってみないと」
『…そりゃそうか』
深く考えずとも、その質問をしたら黒子がどう答えるかは予想できたはずなのに。
焦って安直なことを聞いてしまったことに気づき、そして恥じた。
即座に会話が終了し、再び雨音だけが響く。
またしてもチクチクが天を襲う。
その痛みがきっかけとなったのだろう。
天はらしくもなく「何か労りの言葉をかけなければ」と、少しばかりムキになった。
今この状況で“それらしい言葉”をかけなければ、途轍もなく格好がつかない気がしたのだ。
だから、「あの…その…」と口ごもりながらも続けた。
『私はバスケとかよく分かんないけどさ。
応援してるから、黒子くんのこと』
またしても、あまり深く考えぬままに言葉が口をつく。
バスケなんて知らない。
黒子のことも元々知らない。
そうやって知らん顔してることを、バレることは許されない。
“藤堂 天”という人物は、東京ではそう在らなければならなかった。
そう頭では分かっていたはずだった。
それでも、何か言葉をかけずにはいられなかった。
『楽しめるといいな?ちゃんと…』
そう言いながら、黒子に対してぎこちなく微笑んでみせた。
ちゃんと笑えてたかどうか、天には分からない。