• テキストサイズ

宵闇の明けと想ふは君だけと〈I•H編〉

第11章 バスケットボールと花時雨


●天 side● 〜渡り廊下〜


時間的に、もうすぐ空が本格的に暗がり始めるだろう。


夜桜とは良いものだ。
月明かりと星空の元で咲き誇る日本の桜は、太陽の下で見るそれとはまた違った風情がある。


しかし、今日は違った。
月は分厚い雲の裏に隠れ、天の目の前に広がる風景は、わざわざ足を運んで見にくるようなものではない。


『止む気配ねぇーな…』

「そうですね」


どこからか聞こえる微かな春雷の音に、天の心臓は一瞬、気持ちの悪い鼓動を刻んだ。


どれくらいの時間、そうしていただろう?


いつまで経っても雨音は鳴り止まないし、寒いし湿気はすごいし。
なんなら、物凄く気まずいし。


静寂がチクチクと痛い。


きっと一人でなら、どれだけ待とうが苦ではなかったはずだ。
しかし、今は真横に黒子がいる。


痛みに耐えるには、限界があった。


元々お喋りな方ではない天にとって、関係値の浅い人と2人きりになることは、当然だが得意ではなかった。
今だってそうだ。


「桜を見ながら雨が止むのを待つ」なんて言わなければ良かった、と。
何度も何度も思い、その度に悔やんだ。


しかし、言ってしまったことは取り返しがつかない。
現にいま、黒子は確かに天の隣にいる。
それだけは目や耳を使わずとも、感覚だけで理解できた。


だから天は、気を利かせて自ら黒子に切り出した。


『バスケ部、楽しんでやってけそ?』


あまりよく考えぬうちに…


/ 358ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp