第11章 バスケットボールと花時雨
●天 side● 〜渡り廊下〜
時間的に、もうすぐ空が本格的に暗がり始めるだろう。
夜桜とは良いものだ。
月明かりと星空の元で咲き誇る日本の桜は、太陽の下で見るそれとはまた違った風情がある。
しかし、今日は違った。
月は分厚い雲の裏に隠れ、天の目の前に広がる風景は、わざわざ足を運んで見にくるようなものではない。
『止む気配ねぇーな…』
「そうですね」
どこからか聞こえる微かな春雷の音に、天の心臓は一瞬、気持ちの悪い鼓動を刻んだ。
どれくらいの時間、そうしていただろう?
いつまで経っても雨音は鳴り止まないし、寒いし湿気はすごいし。
なんなら、物凄く気まずいし。
静寂がチクチクと痛い。
きっと一人でなら、どれだけ待とうが苦ではなかったはずだ。
しかし、今は真横に黒子がいる。
痛みに耐えるには、限界があった。
元々お喋りな方ではない天にとって、関係値の浅い人と2人きりになることは、当然だが得意ではなかった。
今だってそうだ。
「桜を見ながら雨が止むのを待つ」なんて言わなければ良かった、と。
何度も何度も思い、その度に悔やんだ。
しかし、言ってしまったことは取り返しがつかない。
現にいま、黒子は確かに天の隣にいる。
それだけは目や耳を使わずとも、感覚だけで理解できた。
だから天は、気を利かせて自ら黒子に切り出した。
『バスケ部、楽しんでやってけそ?』
あまりよく考えぬうちに…