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宵闇の明けと想ふは君だけと〈I•H編〉

第11章 バスケットボールと花時雨


●天 side● 〜渡り廊下〜


『黒子くんも?』


天の「桜を見ながら雨が止むのを待つ」というポッと出の計画に対して、突然「着いて行ってもいいか」と言い出した黒子。


それに対して天が「部活は?」と尋ねると、「始まるまでです」と黒子は答えた。
そして結局…


2人で雨の中、しばし桜を見ることになってしまった。


天と黒子は教室から移動して、教室棟と別棟を繋ぐ渡り廊下へと場所を移した。
天がここに来たのは数えるほどしかなく、入学式を除けば購買に昼食を買いに来た時以来だった。


扉から外に出た瞬間、雨の音に包まれる。


雨粒が発する音。
地面に落ちた時、屋根に跳ね返された時、壁を伝って流れ落ちる時。
一様に“雨の音”となって、四方八方から天を包み込んだ。


すぐそばに落ちて跳ね返った雨粒がかからないよう、足元に気をつける。
天の身体は直接外気に触れ、肌寒さで鳥肌が立つのが分かった。


なぜわざわざ窓のある二階ではなく、吹き抜けになってる一階を選んだのかには理由があった。
屋外ゆえの不便さは否めなかったが、ここは校庭と直結しているため、校門まで続く桜並木がよく見えるのだ。


と、天は思っていたのだが…


『やっぱ雨降ってるとよく見えねぇーな…』

「そうですね」


実際に見てみれば、溜息が溢れるような美しい風景は広がっておらず、想定していた充実感は得られなかった。
むしろ二階から見ていた方が、よく見えていたほどだった。


視界の先は、土砂降りの雨と濡れたアスファルト。
華々しく春の色を放っていた桜の花は、雨粒を纏って悲しげに色褪せていた。


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