第11章 バスケットボールと花時雨
●天 side● 〜1-B教室〜
黒子に言うつもりはなかった。
『桜…』
「え?」
しかし、気づいた時には、思っていたことが口から出てしまっていた。
『桜を見て待ってようかな?』
そう口にしてしまった後に気づいた。
どうして自分はこんなことを、黒子に言っているのだろう、と。
「変なやつだと思われたかも」という心配から、なんとか取り繕おうと頭の中で言い訳を作り出す。
しかし、そんな都合のいい台詞はすぐには思い浮かばず、天はただ「…なんてな?」と言うだけで、バツが悪そうにぎこちなく微笑んでみせた。
いま目の前にいるのが、黒子だったからかもしれない。
自分に対して「使いますか?」と、自らの傘を差し出してくれた黒子だったから。
これ以上心配させまいと、たまたま思いついた都合のいい理由を、雨が止むのを待つ口実にしようとしただけだった。
しかし…
『なんというか…この雨で散っちゃったら
なんか嫌じゃん?』
出てくるのは、ちゃんとどれも本音だった。
『だから、どっか桜のよく見えるところで
雨が止むのを』
「雨が止むのを待つ」と、宣言しようとしたその時。
「ボクも」
黒子の声に静止され、天の言葉は簡単に掻き消された。
「ボクも着いて行っていいですか?」
『え?』
この時、土砂降りの空と校庭の桜並木は、それまで独占していた天の視線を。
いとも簡単に、黒子の淡い瞳に奪われてしまった。