• テキストサイズ

宵闇の明けと想ふは君だけと〈I•H編〉

第11章 バスケットボールと花時雨


●天 side● 〜1-B教室〜


黒子に言うつもりはなかった。


『桜…』

「え?」


しかし、気づいた時には、思っていたことが口から出てしまっていた。


『桜を見て待ってようかな?』


そう口にしてしまった後に気づいた。
どうして自分はこんなことを、黒子に言っているのだろう、と。


「変なやつだと思われたかも」という心配から、なんとか取り繕おうと頭の中で言い訳を作り出す。
しかし、そんな都合のいい台詞はすぐには思い浮かばず、天はただ「…なんてな?」と言うだけで、バツが悪そうにぎこちなく微笑んでみせた。


いま目の前にいるのが、黒子だったからかもしれない。
自分に対して「使いますか?」と、自らの傘を差し出してくれた黒子だったから。


これ以上心配させまいと、たまたま思いついた都合のいい理由を、雨が止むのを待つ口実にしようとしただけだった。


しかし…


『なんというか…この雨で散っちゃったら
 なんか嫌じゃん?』


出てくるのは、ちゃんとどれも本音だった。


『だから、どっか桜のよく見えるところで
 雨が止むのを』


「雨が止むのを待つ」と、宣言しようとしたその時。


「ボクも」


黒子の声に静止され、天の言葉は簡単に掻き消された。


「ボクも着いて行っていいですか?」

『え?』


この時、土砂降りの空と校庭の桜並木は、それまで独占していた天の視線を。
いとも簡単に、黒子の淡い瞳に奪われてしまった。


/ 358ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp