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宵闇の明けと想ふは君だけと〈I•H編〉

第11章 バスケットボールと花時雨


●天 side● 〜1-B教室〜


『雨?!』


それに気づいた天の表情は、天候同様曇り始めていた。


それでも雨雲はお構いなしに、雨脚をさらに強めていく。
目の前をザーーーッ!!という音を立てながら落ちていく無数の雨粒を前に、天はどうすることも出来なかった。


「最悪だ…」と、天は肩を落とした。


天が戸惑うのも無理はない。
なぜなら天は今日、傘を持参していないのだから。


ところが、その表情からは「後悔」と言うよりか、むしろ「困惑」という心情が読み取れる。


天は虚しさを感じていた。
梅雨にしては早すぎる、この春雨を前にして。


傘を忘れたからではなく。
家に帰れなくなったからでもなく。


突然降りだしたこの雨で、桜が散ってしまうのではないか、と…


目の前を勢いよく落ちていく雨粒の数と、地面に達したときに放つ音の大きさを聞いていたら、天は無意識に思い描いていた。
息を吞む程に見事に咲き誇っていた、校庭の桜並木のことを。


「散らないで欲しい」、「そんなにすぐに私の元から去らないで欲しい」。
今の天にあるのは、ただそれだけだった。


そんなことを心配したところで、自分にはどうすることもできないのは分かっていた。
しかし、頭では分かっていても、心はどうしても追いつかない。


「何もできず、ただ眺めているだけ」という哀愁が、天の中で宙ぶらりんになって。
それがただただ、虚しかった。


そんな風に、教室から窓の外を眺めている時だった。


「使いますか?」


横から声をかけられた。
天はまたしてもハッとして、視線を動かした。
窓の外から、教室内の自分の隣へ。


もう既に何度も聞いた穏やかなその声に、天は気付いていた。
声の主が誰なのかを。


天の視線の先では…


帰り支度を終えた様子の黒子が、いつもと変わらぬ目を天に向けていた。
そして、


「傘」


黒子はそう言って、天に自分のものであろう折り畳み傘を差し出していた。


「いま、困ってましたよね?」


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